難民から資産を没収!? -Jewelry Lawをめぐる議論ー
先日、ツイッターのタイムラインをさかのぼっていると
やたら"Denmark"という文字を目にした。
何かと思えば、デンマークが難民・移民から財産を回収できるという法律が可決されたことを世界中のメディアが報じたようであった。
具体的には、難民から10,000クローナ(1クローナは約18円)以上の資産を没収し、彼らの住居や食事などの経費に充てるいう内容だ。
元々は婚約指輪など思い出の品を含むありとあらゆる財産を没収する法律であったため、英語では"Jewelry law"と呼ばれている(反対意見が続出したため、思い出の品は対象から除外された)。
上の記事にも“controversial”とあるようにこの法律はかなり論争を巻き起こしている。
国連で難民関連の問題を担当する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はこのデンマークの決定をかなり強く非難し、「難民の尊厳への侮辱だ」と述べ、国連のパンギムン事務総長も、命からがら逃げてきた難民たちは敬意をもって扱われるべきだという趣旨のコメントを出した。
さらなる批判として、Jewelry lawはナチスドイツがユダヤ人を強制収容所に送り込む際に全ての財産を没収していたとの比較に値するという意見もある。
↑デンマークのシンボルの一つである人魚姫が難民から没収した宝石類を身に着けている風刺画
デンマーク政府は法律成立前から投げかけられた激しい批判に対し、「デンマーク史上最も誤解された法律だ」と反論した。
Has Denmark’s plan to seize goods been misunderstood? - The Local
デンマークは高額な税を徴収する分、多くのリターンを与えるという社会民主主義の国であり、デンマークで暮らそうとする以上難民だからといって支援を無償で与えるわけにはいかないというのがJewelry lawの趣旨だ。
この法律が議題に上ったあとに起こった大事件といえば、2015年末にヨーロッパ各地で起きた性的暴行事件だ。
この事件は特に日本においては断定的に難民によるもの言われているが、地元のギャングが絡んでいたという説もある。
ちなみに1月6日までに逮捕されたシリア人は難民ではなかった。
一方で、犯行が「アラブ系」によって行われたことは間違いなさそうだ。
しかし、実態がどうであれこの事件は難民の流入に不安を覚えていた人々に、表立って難民受け入れ反対を表明する材料を与えてしまった。
間違いなくデンマークにおけるJewelry law成立の追い風となったはずだ。
個人的な意見としては、Jewelry lawはあくまで国民の不満を抑えるための政策であるように思う。
自分たちが働いて稼いだ税金を難民に与える政府という印象を持たれないためにも、難民から何かを徴収する必要があり、今回の法律は毅然とした対応を示すためのパフォーマンスの一種と言ってしまってもいいような気がするし、難民が移住先としてデンマークを選ばないようにするためのものでもあるだろう。
だいたい、難民から回収できる金額などたかが知れているだろうし没収した資産で難民支援を賄うのは難しいだろう。
(↑デンマークにやってきた難民の持ち物を取材した記事)
しかし、それが「宝石まで巻き上げられる」というセンセーショナルな部分が取り上げられ、大きな問題となった。
実はこの種の法律はスイスで施行されており、今後はドイツもそれに続く模様だ。
難民を受け入れ続けることはいかに国が豊かであろうと難しい。
しかし、本当に命からがらで逃げてきた人たちに対し今も殺戮の続く母国へ帰れ、と言い切ってしまうこともまた難しい。
イスラム問題に関して多くの著作がある池内恵は、「2015年は西欧の普遍主義の限界を思い知らされた年、2016年は限界をあからさまに認めてしまう年」と述べた。
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Posted by 池内 恵 on 2016年1月23日