留学に大和魂って必要ですか?
留学に行く、となると「日本のことを勉強していったほうが良い」と言われる。
確かに実際に留学を始めてみると日本のことについて聞かれる。
結局、僕は大して日本のことを勉強しなかった。
日本のことって何だろう、と考えているうちに海外に出てしまった。
やっぱり一番聞かれることが多いのは日本のアニメや漫画について。
ドイツでは「ワンピース読んでた」と言ってしまったばかりに
「まじか!!じゃあ、ルフィのギアフォースについてどう思う!?」と聞かれ、あまりの連載の長さに辟易して途中で読むのをやめた僕は困ってしまった。
(質問された時はオクトーバーフェストの会場で、聞いてきた彼は別の友達に絡まれたので答えずに済んだ。)
海外に出るにあたって日本の何を勉強すればいいのだろう。
能や歌舞伎、茶道について一通り習ってから海外に出れば良いのだろうか。
それともドラゴンボールとワンピースを全巻読めばいいのだろうか。
でも、日本の伝統芸能って生活に結びついているとは言えないし、
アニメや漫画も興味がないから見てなかっただけなのに
なぜ海外に行くために馴染みのないものに手を出さないといけないのだろう。
それって不自然じゃないか、と僕はずっと思っていた。
少し話は変わるけど、
僕は常々、「大和魂」みたいなものを疑問に思っている。
それはべつにそういう言葉が「戦争を想起させる!」というような政治的理由からではない。
今まで、日本人に囲まれ自分を相対化して見る機会のなかった人間が「日本人の心」とか言っても
それは自分の持つ限られた情報、あるいはメディアによって恣意的に流された情報から構築された日本のイメージとの海外のイメージを比較して形作られるものにすぎない。
日本人が「大和魂」とか「日本人の心」というものを抱いて海外で生活したりビジネスをしよう
というのは、「僕はこういう人間でーす!!」という主張を振りまいているようにしか見えない。
日本的なものとして「おもてなし」とよく言われるけど、海外の人におもてなしの精神がないとは思えない。
海外だってお金を払えばちゃんとしたサービスを受けられるし、彼らは彼らなりのサービス精神を持って動いている。
(とあるサイトによれば日本のおもてなしは対価を求めずに期待以上のサービスを提供することだそうだが、それって単純に働く人のやる気を搾取して賃金以上のサービスを提供させてるだけの気もする…)
歌舞伎からアニメといった日本の文化やおもてなしのような日本的精神を学んでも
それは結局だれかの受け売りでしかないと思う。
付け焼き刃の知識はすぐにボロが出る。
海外の友達に日本文化について聞かれて、知らなかったのなら一緒に調べればいいんじゃないか。
「歌舞伎とか能とか一般的ではないよ」と言えばいいし、「日本人全員がワンピース読んでるわけじゃないよ」と言えばいいんじゃないだろうか。
それはそれで正しい日本の姿だ。
広告会社の陰謀だ!!とまでは言わないにしても、自分以外の誰かが作り上げたぎこちない日本のイメージを
慌てて身につける必要はないと思う。
日本で流通している「海外の人が日本に持つイメージ」と「日本人が日本人に持つイメージ」は、自分で自分を外から見たことがない以上、あくまで二次情報から作り上げられた虚構の世界でしかない。
自分で作り上げた虚構の世界を相手に押し付けたって、それを理解してくれるはずがない。
皮肉だけれど、日本的なものという意識を日常の中で形成できないのが日本の特徴のような気がする。
多くの国は色んな人種の人が街を歩いているし、ヨーロッパなんかは国が地続きだから
常に外国人と接触している。
そんな場所では自分の国に対する意識が強く生まれ、自分の国を相対化する意識が生まれやすいのだと思う。
海外から帰ってきて、日本のことを学ぶことに意欲的になる人を見かけるが、僕はそれがけっこう正しい姿だと思う。
自分のくらす国がどう見られているかをリアルに感じ、他者が自分について持つイメージをより詳しく知りたいと思うのは当然のように思う。
なにより、日本でも海外でも「大和魂」なんてものを持つよりはまず「人として何が正しいか」という発想を持った方がいい。
あえて名前をつけずとも、ゲストが来たら温かく迎えるのは当たり前だし、困っている人がいたら助けるのは同じだ(その迎え方や助け方の違いで誤解は生まれるかもしれないけれど)。
自分が人として正しいと思うことをして、もしそれが誤解を生んだなら説明すればいい。
そして謝って次から別のやり方をすればいいだけじゃないのか。
人として誠実に向き合えば相手は「あの日本人はいいやつだ」となると思う。
あえて海外に出てきたのは自分の中の何かを守るためじゃない。
逆に何かを変えたいと思い、未知なるものを求めて旅立つ人が多いと思う。
だったら、さっさと大和魂なんて捨てて新しい環境に溶け込めばいい。
誰かが「大和魂」と呼んだつまらないプライドを壊して壊して壊して、
それでも壊せないものを見つけたなら、それが本当の大和魂だろう。